学生ビジネスプランコンテストで2冠獲得!
学生ビジネスプランコンテストで2冠獲得!
~微生物の力で持続可能な農業の実現を目指す~
連合農学研究科
3年 安掛 真一郎さん
一般社団法人AgVenture Lab主催の「JUMP ~JA×University “MIRAI” Pitch-Contest~(以下?ピッチコンテスト※)」に「日本初 水稲直播栽培に適したバイオ肥料キットの製造と販売」のビジネスプランで出場し、「優秀賞」と「オイシックス?ラ?大地賞」を受賞した連合農学研究科生物生産科学専攻の安掛 真一郎さん(2022年3月修了。現在、本学農学研究院 特任助教)。コンテストに参加した経緯や、化学肥料の使用量を減らした減肥栽培、化学肥料と農薬を使用しない有機栽培へバイオ肥料を普及する取り組みと研究について伺いました。
※JUMP ~JA×University “MIRAI” Pitch-Contest~
社会課題の解決を目指すために既に起業している又はこれから起業を目指す学生チームのサポートを目的とした、全国規模のビジネスプランコンテスト。
バイオ肥料とは、どんなものですか。
土の中には様々な細菌が存在しているのですが、中には植物の成長を促進する力を持つものもいます。そんな細菌を取り出して農業資材にしたものが「バイオ肥料(Biofertilizer)」です。
現在、農業の分野では、作物の成長を促進させるために、植物に必要な三大要素(窒素、リン、カリウム)を含んだ化学肥料が主に利用されています。しかし、化学肥料を過剰に使用すると環境汚染と資源枯渇に繋がるため、化学肥料を使用する慣行栽培から、化学肥料を減らした減肥栽培や化学肥料と農薬を使用しない有機栽培への転換が望まれています。ただ、有機栽培は慣行栽培に比べて作物の生産性が2~3割弱減少するというデメリットがあり、それが有機栽培普及の障壁となっています。
そんな中、バイオ肥料は、慣行栽培の問題点を解決できる可能性を秘めるものとして注目されています。
私が所属する研究室で開発したバイオ肥料は、農工大の畑で採取された「Bacillus pumilus TUAT1株」という細菌を使ったもので、「ゆめバイオ」という名前で販売されています。作物の根の成育を促進する効果があり、慣行栽培と組み合わせることでお米の収量を10~30%増加させることができます。また、「ゆめバイオ」を使えば、化学肥料を30%減らしても慣行と同等の収量を得ることができます。
ピッチコンテストに参加したきっかけは?
取り組んでいる研究について、多くの方に知っていただく機会になればいいと思い、参加しました。ピッチコンテストへの参加は初めての経験だったので、ビジネスモデルを作る力や、市場を見る目を養いたいという期待もありました。
世界と比較して、日本の有機栽培の割合やバイオ肥料産業の成長度は低く、今のままでは日本は取り残されてしまうと、危機感を感じています。慣行農業の課題や、それを解決するために取り組んでいるバイオ肥料研究について紹介することで、有機農業の業界全体を盛り上げようと思いました。
まさか賞をいただけるとは思っていなかったので驚きましたが、2つの賞に選んでいただけたことは、とても嬉しく思っています。
ピッチコンテストで発表した起業ビジネスプランについて教えてください。
ビジネスプランとしては、イネの「直播栽培」に適用したバイオ肥料の販売です。これまでのイネの栽培方法は、あらかじめイネの苗を育てた後に田んぼに移植する「移植栽培」が大多数を占めていましたが、近年の少子高齢化に伴い、直接水田に種をまく「直播栽培」に移行してきています。しかし直播栽培に適用したバイオ肥料は今のところ販売されていないため、種子へのコーティングが簡単にできるバイオ肥料のキットの社会実装を目指しています。
研究について教えてください。
バイオ肥料に用いられる植物生長促進微生物の機能はまだまだ未解明の部分も多いため、バイオ肥料を普及していくためにも、植物と微生物がどのように作用し、植物の生長が促進されるのか、そのメカニズムを明かす研究をしています。博士課程では、菌が「芽胞体」という休眠状態のときにだけ作る物質が、植物にどんな影響を及ぼすのかを調べました。
研究対象の植物には、博士課程1年のときに留学したアメリカのミズーリ大学コロンビア校で出会いました。英語で「Setaria」と呼ばれ、馴染みのない名前だったので、知らない植物だと思っていたのですが、育った姿を見たら、なんとネコジャラシ(エノコログサ)でした。道端でよく見かける植物ですが、光合成能が高い植物のモデルとして、研究にも使われているんです。
1年間の留学予定が、中国竞彩网の影響で4か月で帰国せざるを得なくなり、当初予定していた研究は十分にできなかったのですが、帰国後も、ネコジャラシを対象に研究を進めました。
どうしてこの研究テーマを選んだのですか。
もともと環境問題に興味があって、茨城工業高等専門学校(茨城高専)で7年間化学を専攻しました。茨城高専で、工学学士の学位を取得したのですが、農業が環境問題の原因の一つということをラジオで聞いて衝撃を受け、農業の環境問題を解決したいと思いました。
そこで、農学について一から勉強し、農工大の大学院農学府に入学しました。
高専の時の研究テーマは、微生物の酵素のモデル化合物を合成する分野だったので、微生物の可能性に惹かれて、「微生物の利用」と「農業の環境問題解決」ができるバイオ肥料研究を選びました。
研究のやりがいやおもしろさについて教えてください。
農学は生産現場の課題が私たちの生活基盤に直結していて、私たちの研究成果が実際に現場に還元されやすい魅力があります。
修士のときに福島で営農再開するためのプロジェクトに関わりましたが、環境問題だけでなく、風評被害や少子高齢化も農業の大きな課題だと感じました。しかし、それらの解決に日々努力されている農家の方々の姿を目の当たりにし、こういう方々を支える研究者になりたいと思うようになりました。
私は農業分野で研究していること自体にやりがいと誇りと感じていて、それ自体がおもしろさに直結しています。
バイオ肥料を広く浸透させるための手段の一つとして、慣行栽培による環境への影響についての理解と、バイオ肥料の有効性についての最新調査結果を農家のみなさんに伝えるため、クラウドファンディングにも挑戦しています。
農家の方と接すると、みなさんとてもこだわりを持って資材を選び、作物を育てていることがわかります。自然を相手にしている農家の方だからこそ、科学的に裏付けのあるバイオ肥料を選んでいただけると信じています。
日本の現行の法律では、三大要素(窒素、リン、カリウム)を代表とする化学的な栄養成分が入っていないと「肥料」と名付けられず、バイオ肥料の普及には、まだ法整備も間に合っていないような状況です。現在、バイオ肥料が普及しているのは、化学肥料が手に入りにくい東南アジアですが、将来、日本が「バイオ肥料先進国」と呼ばれるようにしたいという想いで、取り組んでいます。
学生時代にやっていた方がいいことがあれば教えてください。
あくまでも私の実体験に基づいたアドバイスとなってしまいますが、バイトやボランティア、外部の勉強会など、いろんなコミュニティに顔を出しておいて良かったなと思います。
研究室内や学内のように、同じような学力や同じような考え方の輪にいると頭が固くなり、周りが見えなくなります。私もそうなったことがありますし、研究者は陥りがちと言われています。
そこで、学力やバックグラウンドに捕われないコミュニティに行くと、自分や自分の研究の小ささが分かります。ですが、それらを大きくしてやっと「社会に認められている研究」と胸を張って言えると思っています。私にとっては、この「社会に認められている研究」を設定したいという気持ちが、研究を多くの方に知っていただく活動のモチベーションに繋がっているように感じます。
私自身まだまだこれからですが、皆さんと一緒に社会と学術の隔たりをなくしていきたいと考えています。
今後は起業される予定でしょうか。
すぐに起業することは考えておらず、まずは、アカデミアの世界で後進の指導にあたりながら、バイオ肥料の研究を進めていきたいと考えています。
現在は、農工大グローバルイノベーション研究院所属の特任助教として、農学部生物生産学科 大津直子教授の研究室(植物栄養学研究室)で引き続き研究をしています。4月からは再び福島での営農再開プロジェクトに参画しているので、お米がとれる10月ごろまでは、福島に足を運ぶ機会が増えると思います。
また、せっかく留学の機会をいただいたのに、コロナの影響で十分な研究ができなかった心残りがあるので、アメリカにもう一度留学する計画を立てています。
後輩へ、メッセージをお願いします。
研究は「面白いからやっている」タイプの人と「世の中の課題を解決したいからやっている」タイプの人がいると感じています。前者はノーベル賞をはじめとした名誉ある賞を受賞するような方で、研究に熱中し夢中になれる素質があると思います。私は後者で、前者の人を見ると「敵わないなあ」と思いますが、私なりの信念を持って研究に向き合っています。皆さんも自分なりの研究のやりがいや面白さを見つけてください。きっと十人十色で違うはずです。
また、農工大の良いところは、学内のつながりが強く、研究室以外の先生にも相談に乗っていただけるところです。農学部だけでなく、工学部の先生ともコラボできる環境は、とても貴重だと思います。
私は、剣道をやっていたのですが、剣道では「出稽古」といって、自分の所属している道場以外で、稽古をつけてもらうことがあります。この出稽古を通じて、能動的につながりを作り、できることを探す経験を積むことができたと感じています。
やってみたいことがある人は、ぜひ自ら動いてみてください。学部?学科の垣根を越えて、受け入れてくれる先生が見つかるかもしれません。
(2022年5月23日掲載)